1.あぁ やっぱりそうなんだ
僕はその様子を見て 妙に納得してしまった

あぁ やっぱりそうなんだ
僕はその様子を見て 妙に納得してしまった

彼女が彼を見るその視線の熱さ。
彼が彼女を見るその瞳の穏やかさ。

ああ、やっぱりそうなんだ。

知っていたこと。
確信していたこと。現実を突きつけられるとこうも苦しいこと。
なのに。
現実を突きつけられれば、こうも気が楽になるなんて。



「涼宮さんへのご自分の気持ちを、やっと認められたんですね」
「…」
 少し突けば、彼はぎゅっと眉間に皺を刻み…それから、諦めたように溜息をついた。溜息をついた割りにその表情は妙に晴れやかで、余り見かけない笑みさえも含んでいるように思う。
「悪いか?」
「いいえ。何も悪くありませんよ。むしろお祝いして差し上げたいほど喜ばしいことだと思います」
 慣れ親しんだ仮面の笑顔。会心の出来だと自己評価できるような笑みを浮かべた僕に、彼は照れくさそうな、困ったような、そんな表情を浮かべた。
 それも、僕には初めて見せるもの。
「俺は…お前は、ハルヒが好きなんだと思ってたよ」
「え?」
「神様と祭り上げて、傍にいて、ハルヒのご機嫌取りに懸命になって、ハルヒ中心で動いてる奴がそこにいれば…そう思ってもおかしくないだろ」
「…そうですね。そうかもしれません。僕は涼宮さんが好きです。とても魅力的な方ですから。…でも、そういう対象とは少し違いますし…僕には、別に好きな人がいますから」
 躊躇いがちにされた告白。僕を見る彼の目には、かすかな懸念、かすかな不安、かすかな罪悪感が浮かんでいた。
 だから、僕はまた微笑む。
 いつからだろう。
 涼宮さんに望まれたからかぶったこの仮面が。
 彼女のために着けたこの仮面が、僕と、彼を、守るようになっていたのは。
 僕の仮面が彼に見破られることはない。
 これは僕の自惚れだけではなく、彼の保身のせいでもある。
 彼は僕の仮面の裏に見てはいけないものがあると無意識に悟っている。
 だから、長門有希の無表情さえ読み解く彼でも、唯一僕の仮面を見破ることはできない。
「そうか。…誰かは聞かないが、せいぜいガンバレ」
 ほら、またそうやって、貴方は僕が作った距離を守る。
「ええ。ありがとうございます。…ああ、涼宮さんが呼んでますよ?」
 遠くで手を振っている彼女を示すと、彼はまた新しい表情を僕に見せ付ける。
 柔らかい目で。
 優しい目で。
 彼女に手を振り返して。


あぁ やっぱりそうなんだ
僕はその様子を見て 妙に納得してしまった

 結局、神と神に愛された貴方は。
 僕を置いて遠いところに行ってしまう。
 取り残された僕は、誰を恨むことも許されず。
 許されない僕はここに取り残されたまま、あなた方の傍で笑うことだけを望まれる。
 この気持ちが罪なのだと教えられる。

あぁ やっぱりそうなんだ

 わかっていた未来。
 わかりきっていた未来。
 突きつけられると苦しいのに、突きつけられれば存外気楽。

「古泉くーんっ!」

 万に一つも望みなどないことを知っていただけに、彼女を恨んだり、彼女を妬んだりすることもなく、僕はまだ仮面をまとうことができる。
 彼の腕を掴んで、こちらに大きく手を振る彼女に、僕はまだ笑顔を向けられる。
 きっと、すぐにこの気持ちを吹っ切れるだろう。


あぁ でも
もう少しだけ、あと少しだけ

貴方を好きでいさせてください。

彼女の隣で、新しい表情を僕に見せ付ける貴方に、僕の心が慣れるまで。


小説リハビリということで、お題を借りようと色々お題配布サイト様を巡っていて
このお題を見つけた瞬間浮かんだSS。

昔は一番考えずに文章にできるのが締めだったのですが
今は一番頭を悩ませてくれるのが締めの文章。

何か思いついたら締めだけ書き直すかもしれません。


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