※VOCAMOE様主催の絵茶に混ぜていただいて、某絵師様が描かれていたマスターが余りにもツボだったので突発的に書き出したSSです。
※許可を頂いていないのでうちに某絵師様の絵はうpしてません。



 最後の音まで緊張しながら歌いきって、俺は口を閉ざした。
 ちらりとすぐ傍でデスクチェアに身を沈めるマスターを見てみるけど…薄いレンズの眼鏡の向こう側の冷えた瞳は、ただ静かに俺を見つめているだけ。

『次ミスったら…コーレ』

 さっき、そういいながら俺に示して見せたのは…俺がそれ苦手だってことはマスターが一番よく知っている、青唐辛子…。
 うううっ うちのマスターは鬼だ…。

 最後の伴奏までを黙ったまま聞き終えてから、やっとマスターが動いた。ふぅっとその薄い唇から小さく溜息。
 …っお、俺…また駄目だった…かな?

 ふるりと背筋が震えて、ぎゅっと手を握り締めた。そんなはずはないのに汗が滲んできているような気がする。
 青唐辛子はいやだ。痛くてあつくてつーんってして涙が出る…。アイスとは正反対だ!!なんであんなものが食べ物として世間一般に認められているんだろう?人間っていうのは本当に不思議だ。だってあんな…あんな…っ!!あんなものが食卓に乗せられて平然と大きな顔をしていると思うだけで鳥肌が立って、味を思い出して涙が出てくる。あんなものをかけて食べるくらいならアイスを乗せればいいじゃないか…っ!
 …って、そんなことを考えてる場合じゃなくて、もし何か俺がまた間違えたんだったら謝って許してもらわなきゃ…。…じゃなきゃ青唐辛子だ…。アノヒトは絶対、笑いながら俺の口にアレを突っ込むんだ…っ

「KAITO」
「ま、マスターっ!ごめんなさい!」

 がばっと勢いよく頭を下げ、コートの裾をぎゅっと握り締めた。全身が震えているような気がして情けないけど、本当に唐辛子だけは嫌なんだ…っ!

 ……でも、いつまで経ってもマスターは何も言ってくれなくて。
 恐る恐る見上げると…


 マスターは、口元を押さえて肩を震わせていた。

「…マスター?」
「ちょ、待って…」

 マスターはひらひら手を振って俺を黙らせてから、くつくつと肩を震わせ続ける。
 しばらくして、ようやく収まったのか、めがねの奥の瞳に浮いた涙を拭いながらやっと俺を見た。

「お前、そんなに青唐辛子嫌なのか?」
「勿論です!」

 思わず即答した俺にマスターは、今度は声を殺さずに笑い始めた。
 …一体何なんだ?

「悪い…っ…今の良かったよ」

 暫く一人で笑ってやっと落ち着いたのか、マスターは軽く首を傾けながらデスクチェアの背もたれにゆったりと体を預けた。首にかけていたヘッドフォンを外し、指先でちょいちょいと俺を呼ぶ。
 言われたとおり近づいた俺の頭に手が伸びてきて、何をされるのかとちょっと怯えつつもただ黙って見上げていたら…ぽん、と撫でられた。

「でも、人の話はちゃんと聞け。いきなり謝るな」

 思い出したのか、またマスターの肩が小さく揺れる。滅多に見られない全開の笑顔に俺はぽかんとするばかり。

「ま、すたー?」

 俺が歌の歌詞を間違えたりリズムを間違えたりマスターの指示通りにスタッカートをかけられなかったりする度に、唐辛子の粉を投げたり俺のアイスを目の前で食べたり悪い時には俺をベッドに連れ込んで泣いて謝るまで許してくれないマスターしか、俺は知らないわけで。
 こんなに柔らかい雰囲気のマスターに俺が戸惑うのも無理はないと思うんだけど…。
 …だって、笑うと…凄く優しそうだから。

「…俺が笑ってるのがそんなにおかしいか?」

 ただただ呆然と主を見下ろす俺を見て、マスターの表情が見慣れた不機嫌なものに変わった。俺は慌てて首を横に振るけど…多分表情にはありありと「肯定」の二文字が出てると思う。
 …きゅっと寄ったマスターの眉間の皺が…消えなくて怖い。

「やっぱ青唐辛子一本いっとくか?KAITO」

 そう言ってテーブルの上に放り出していた青唐辛子を拾い、俺に見せつけながら楽しそうに口角を吊り上げる…。…マスター…その唇とか、目元の角度が唐辛子に見えます…。

 前言撤回。笑っても何しても、やっぱりこの人は鬼だ…っ!


某絵師様、使用許可本当にありがとうございました(*ハ) ゑろがないと鬼畜って難しい(自重

絵茶参加の皆様、手直ししてありる場所がわかってもひっそりと笑うだけに留めてくださいw
…ログ持ってる人はすぐ破棄をお願いします(冫、)見比べないように><