お預け!

 選択肢を間違えた

 俺は今それを痛感している。何故って?
 この状況を鑑みればそれがどれだけ愚問かわかることだろう。もしまた時間を遡っていくようなことがあれば、タイムパラドックスなんて毛ほどにも恐れず、俺は俺に忠告すると誓おう。古泉一樹には半径1光年以上近づくなとな!

「1光年離れてしまったら同時に地球上にも存在できないじゃないですか」

 ああ願ったりだね。そのくらい俺は嫌なんだ。わかったら退け。速やかに。音…いや、光の早さで退け。

「照れてるんですか?キョン君」

 誰がだ!今すぐ退いて精神科にかかることをお勧めするぜ。なんなら俺がいい病院を探してやる。入院したら完全看護脱獄不可能な素敵なところをな。

「それはまた別の機会にお願いすることにします。今は…恋人と甘い一時を過ごしたいので」

 …そりゃ、確かに俺とお前は俗に言うところの、いわゆるコイビトという括りに括るべき間柄なのかもしれないと認めてやらないでもない。
 …その嬉しそうな笑顔をやめろ。
 だがなぁ、古泉。よく考えろ。俺は男だ。

「ええ、勿論わかってますよ?」

 そして、お前も男だろ?

「この15年間、女性だったことはありませんね、残念ながら。男だからこそ、情熱を持て余す、とでも申しましょうか?ふふっ貴方も男ならばわかっていただけますよね?」

 だからっちょっと待て!
 まず落ち着け!そんで俺の上から退け!
 ここは文芸部室で誰が来てもおかしくないんだぞ。俺はお前とのこういうのを誰かに知らせるつもりは1ナノミクロンもない。

「貴方が声を我慢してくだされば大丈夫ですよ。涼宮さんたちは帰られましたし、下校時刻までまだ時間もあるんですから…」


「だからっ!嫌だって言ってんだろうが!!」

 俺は、学校備品の長机の上に俺を押さえつけ、覆いかぶさって余裕ゲに笑う古泉の向こう脛に、思いっきりつま先をくれてやった。

「ぐっ…さ、すがに…応えますよ…キョン君…」
 いい気味だ。

 足を押さえてうずくまる古泉の下からどうにか抜け出した俺は、奴の耳にもしっかり届くよう、盛大に溜息をついてやった。

 全く、選択を誤った。なんで俺はこいつとこういう関係になったんだ。

「僕のことを好きでいてくださったからでしょう?」

 そういうことをさらっと口に出すな。忌々しい。
 ごりごりと首の後ろを掻いてから、こんなときでも笑顔を浮かべたまま脛を擦っている古泉のネクタイをぐっと引っぱる。

「キョンく…っ」

 触れるだけ触れて離れた俺を、古泉が呆然と見上げている。…珍しいことだ。

「帰るぞ、古泉」
「ま、待ってくださいキョン君!」

 さっさと鞄を拾いあげ、部室を出ようとする俺の背中に焦ったような慌てたような古泉の声が追いすがる。こんな声も珍しい。気づかれないように少しだけ笑ってから、できるだけしかめっ面で振り返る。
 帰るまでは、お預けだからな。

 古泉は、どこかの大型犬のような態度で、嬉しげに笑った。それがなんだかくすぐったいような照れくさいようなと感じる俺も、精神化にかかるべきかもしれない。

古泉は大型犬の仔犬のようなイメージがあります。
…しかし、キョンの口調ってなんだってこう難しいんだろう…。

ヤルのは嫌じゃないし、認めるのは恥ずかしいものの古泉のことを誰より大好きで、
でもTPOにはうるさそうなキョンが好き。