※ぼかろは普通にソフトです。
※フォルダが個々人の部屋だと思ってください。
※ネットルームにはぐぐる氏がいるそうです(出ては来ません)



♪はつーねさんちの みーくさん
このごろちょーっとへんだー
どうしたのーかーなー ♪

「…はぁ」
 溜息つきつきアイスをペロリ。…うん。落ち込んでてもアイスは美味しい。

 一緒に歌おうって言っても、新曲聴こうって誘っても
 あーとーでー。
 
 最近、ミクが俺を避けている……ような気がする。
 ちょっと前まではMEIKOやマスターよりも俺に懐いてくれている、可愛い妹だったのに。最近のミクはそわそわそわそわしていて、大好きだった皆でするレッスン中も集中していないし…目が合っても反らされる、し…ネギで釣っても誤魔化して逃げていく……し……。
 さっきだって、アイスを一緒に食べようって声をかけたのに逃げられた。ぱたぱた軽い足音でネットルームに消えていった細い背中を思い出し、一瞬浮かびかけたいやぁ〜〜な疑問を意識して確認しないよう頭から締め出そうと首を振ったがどうにもならず、水の底から立ち上る泡のように浮かんだ言葉が脳裏で形を取る。
 『…嫌われた?』と。
 明確に。縁取り陰付き、点滅アンダーバー太字斜体とこれでもかというほど装飾された状態で。
 ここはパソコンの中だから気温なんてないけれど、それでも体感的に下がった気がするそれを誤魔化すためにアイスを舐めれば、やっぱりソレは甘くて冷たくてトロントロン。
 ふにゃって溶け出しそうな顔を意識的に引き締めて、半分食べてしまったアイスを見下ろす。…決め付けちゃ駄目だよな。
 安くて美味しい(らしい。マスターの住む世界では。これはプログラムだから、値段なんて俺は知らないけど)棒アイスを食べきって、よしっと掛け声一つで自分を鼓舞し、VISTAが俺たちボーカロイド用にってプログラムしてくれているアイスを二つ掴んだ。
 ミクはまだ、ネットルームにいるかな?

* * *

「…兄ちゃん、どしたの?なんかオーラが青黒いっていうか…」
「お兄ちゃん、どうしたの?空気が青重い感じになってるよ?」
「リン…レン…」
 ネットルームからの帰り道で出会った双子にアイスを二つ手渡した。
 空気ってこんなに重かったっけ…。
「兄ちゃん?よろよろしてるけど大丈夫かよ?」
「お兄ちゃん、アイス大好きなのにくれるの?」
 双子達の声も空気の質量に負けて遠くからくぐもって聞こえるなぁ。あはは。
「大丈夫だよ、ありがとレン。俺はさっき食べたからあげるよ、リン」
 それぞれの頭をぽんぽん撫でて、自分のフォルダへと戻る俺の背中を、双子は怪訝そうに顔を見合わせて見ていた。


「KAITO?…リンとレンがあんたの様子が変だって言ってたけど………………ホントに変ね」
「え?」
 フォルダの隅っこに座ってぼーっとしていた俺を覗き込んだ見慣れた顔は、MEIKOの訝しそうなそれだった。
「どーしたってのよ?一体」
「…別に何も…」
「はい嘘。…わかりやすい嘘つかなくていいからはっきり言いなさい。あんたのフォルダが湿っぽいと隣のあたしのフォルダまでカビそうで嫌なのよ」
 …ホントはっきりさっくり言ってくれるボーカロイドだよ、姉さんは。
 腕を豊満な胸の上で組んで仁王立ちして俺を見下ろすMEIKOを見上げ、はぁっと溜息。ミクもMEIKO並みに言いたいことをはっきりきっぱりばっさり言ってくれるタイプだったらよかったのに。……ごめん嘘。想像したらちょっと怖かった…。
「で?」
「で…と言われても…」
「どーーーーせミクかマスター絡みのしょーもない悩みなんでしょうけど、聞いてあげるから、ほら、お姐さんに話してごらん」
 ふっと表情を和ませて、MEIKOは俺の隣に腰を下ろし、俺の頭を抱き寄せて、俺が弟妹達にするようにぽんぽんと撫でてくれた。…俺は子どもじゃないんだけどなぁ、なんて苦笑も零れるけど、正直に言えばやっぱり心地いい。
「…実はミクが…」

* * *

「ミク?いるかい?入るよ?」
 IEの部屋をノックして扉に手をかけたところで中から裏返った2オクターブくらい上のファ#が高く高く響いた。…ミクの悲鳴らしい。
「待って待って待ってーーーー!!」
 …なんだろう。フォルダをあけようとしているわけじゃないんだからまさか中で着替え中なんていうエロゲみたいな展開は待ってないだろうと思うけど…。
 がちゃんどっかんと激しい音が中から響き、暫くして部屋の扉が開いた。…肩で呼吸をしながら心持ち髪を振り乱しているミクは、当たり前だがしっかり服を着ている。
「なに?お兄ちゃん」
「…あ、アイス、一緒に食べようと思って」
 じとっと上目遣いに見上げてくる…というか半分睨んでくるミクに気後れしながら両手に持ったアイスを示して見せれば、妹は数度瞬きを繰り返し、効果音をつけるなら明らかに「きょとん」とした顔をして、それからきゅっと眉間に皺を刻んだ。
「ごめんねお兄ちゃん。今忙しいから後でね」
 そして、扉は目の前で閉じられたのだった。

* * *

「…それだけ?」
「それだけ…って、だって今までは一緒にアイス食べようって言ったら喜んでくれてたし、ネットルームだって一緒に行ったりしてたし、あんな冷たい態度とらなかったし大体俺から逃げたりなんか…っ!」
「あーはいはいわかったわかった。…要するに、あんたはミクに構ってもらえなかったからいぢけてるってことでしょ?」
「……」
 そんな身も蓋もない…。俺にとっては大ショックな出来事なのに、この、竹をよく切れる鋭い研ぎ立ての鉈ですっぱりきっぱりさっぱり割ったような性格の姉は壁にもたれたままふんっと鼻を一つ鳴らしただけだった。
 俺も真似してフォルダに寄りかかり目を閉じたら、意識せず溜息が零れた。
「…仕方ないわねぇ〜〜…。よし。可愛い弟のために、このMEIKO様が人肌脱いであげるわよ!」
「へ?」
「ミクの様子見てきてあげるって言ってるの。待ってなさい」



 する事もなくて、MEIKOを待ちながらぼーっとフォルダで過ごしてそろそろ1時間くらい経つかな。
 マスターが作ってくれたり教えてくれた曲のデータしかない俺の部屋じゃなんにもできなくて、ただ座ってるとミクのことばっかり考えて落ち込むから、気分転換にピクチャフォルダでマスターが撮って来た写真でも見てこようかな〜なんて考え始めた頃。
「…お兄ちゃん?」
 柔らかく高い妹の声と共にフォルダが開いた。
「ミク?」
 あまりにミクのことを考えすぎてとうとうどっかでエラーでも起きて幻でも見てるのかと一瞬思ったが、目の前に立っているのは、淡いグリーンの髪をツインテールに結い上げた、明らかにホンモノの妹。
「あ、のね…。えーっと…MEIKOお姉ちゃんから聞いたんだけど…あの、避けてたわけじゃないんだけど…結果的にそうなってて……ごめんなさい!」
 ばねつきの人形か何かのようにぴょこんっと頭を下げるミク。髪の毛がミクに追従してさらさらと下に流れていくのを見送りながら、何だか不思議なものを見る気分で妹の後頭部を見下ろす。
「えーっと…実は、内緒でこれ…作ってたの」
 差し出されたのは、小さな紙袋だった。見上げてくる目と俺に突きつけるようにぐっと押し出された手にせかされるように紙袋を受け取ると…思っていたより更に軽い。
「クリスマス!………近いから」
 真っ赤に染まった頬と紙袋とを見比べている俺に、ミクは怒ったように言って、そうすれば紙袋をどうにかできると言うように強い視線で俺の手元を睨んでいる。
「…開けていい?」
 こくんと玩具のように首が上下した。…ちょっと今の動きは面白かったよ、ミク。
 久しぶりに普通に会話できることも嬉しくて、俺の頬が自然と緩む。鼻歌まで出てきそうになるのをどうにか押さえながら袋を開けると…
「………マフラー?」
 ところどころ穴が開いているけれど、青い毛糸でできた長い長いマフラー。ふわふわのそれはどう見ても手編みだった。
「…ついさっきできたの。…最後、ちょっとだけMEIKO姉さんに手伝ってもらったけど…」
 最後の編み方をグーグルに教えてもらってたらしい。ここまで内緒で作ってきたのに最後の最後でばれそうになって焦っちゃった、とミクはくすぐったそうにちょっとだけ笑った。
「内緒でびっくりさせようと思ったんだけど、あたし顔に全部出ちゃうから、だからお兄ちゃんと顔を合わせないようにしてたの」
 へたくそだけど、それ、クリスマスプレゼント、と恥ずかしそうに怒ったようにミクが呟くのが嬉しくて嬉しくて、俺はその場で元々つけていたマフラーを外した。
「似合う?」
「…やっぱり穴だらけでかっこ悪いね…。もう少し練習して、ちゃんとしたの作り直すから返して!」
「もうもらったからだ〜め」
 今までつけていたマフラーを床にぽいっと放り投げて、貰ったばかりのマフラーに顔をうずめる。あったかくて柔らかくて、妙に幸せな気分になって勝手に頬が緩むのを止められない。…困ったな。俺今とてもじゃないけど妹には見せられないような、心底情けない顔で笑ってるんじゃないかな。
「あったかいよ。ありがとう、ミク」
「…どーいたしまして」
 でも、手を伸ばして妹の頭を撫でれば、ミクも顔を真っ赤にしながらふにゃってとても可愛いく笑ってくれて…そんな事はどうでもよくなってしまった。
「…アイス、食べに行こうか、お兄ちゃん」


 一緒に食べたアイスは、一人で食べるよりも美味しかったのは………言うまでもないかな?













後日談〜その後のマスターとKAITOの会話〜
「…KAITO、どうしたんだ?お前なんかみすぼらしくなってないか?」
「え?」


たまにはまともにのまるでも書いてみようかと思って挫折しました(冫、)
可愛いミクってどんなイキモノでしたっけ…。 orz orz orz