・VOC@LOIDはソフトです。
・双子はまだ勉強中なので性格が安定してませんがご愛嬌。
・ていうかノリと勢いだけでやった。
・正直反省している。
・いもうとのちアイス、ところにより兄 の続編?単品でも読めますが世界観とか雰囲気とかキャラは同一。
・KAITOの姿は一切ありません(笑


 このパソコンに来てから初めて会った「お兄ちゃん」という存在は、すっごくすっごくもてるみたい。

 まず、あたしの兄弟が陥落された。
 人見知りで頭でっかちのあたしの兄弟レン。初めて会った人には緊張してちゃんとお話できないのに、その理由を別のとこから持ってきて、それで自分を納得させるだけ口も頭も回っちゃうから自分が人見知りするんだって思ってなくて、誰もいなくても歌うだけなんだからへーきって思ってる子だったんだけど…今じゃお兄ちゃんが大好きみたい。
 あたしみたいに飛びついたりお兄ちゃん大好きって言えないぽいけど、気づいたらお兄ちゃんのそばにいる。最初はあたしにしか見せてくれなかった笑顔を時々お兄ちゃんに向けている。
 イイコトだと思うけど、ちょっと寂しい・・・かな。
 あたしの大好きな片割れ、レン。

 それからあたしたちのすぐ上のお姉ちゃんのミクちゃん。
 ミクちゃんもお兄ちゃんが大好きなんだ、って、まだ一緒にいてちょっとしか経ってないけどわかる。
 マスターに新しいネギを貰ったら一番に見せに行ってるし、お兄ちゃんと一緒に歌ってるときが、誰と一緒に歌ってるときより楽しそうだし嬉しそう。
 お兄ちゃんがあたしやレンに手を焼いてる時はちょこっと寂しそうにしてたけど、すぐにお兄ちゃんとあたし達を構えばいいんだって気づいたみたい。
 明るくって楽しくって大好きなお姉ちゃん。お兄ちゃんが大好きなお姉ちゃんが大好き。

 そんでもって、このパソコンで一番のお姉ちゃんのMEIKOちゃんも、弟のお兄ちゃんが大好きみたい。
 でも、MEIKOちゃんの大好きはちょっとわかりにくかったかな。
 レンやミクちゃんみたいに表立ってお兄ちゃん大好きオーラを出してるわけじゃないの。ちょっと離れたところからお兄ちゃんを見守ってる感じ。だからお兄ちゃんが困ってたら一番最初に手を差し出してるの。他の兄弟たちのことも大事にしてくれてる優しいお姉ちゃん。でも、多分一番お兄ちゃんが大好きなんだと思う。時々、お酒飲んでこっそりお兄ちゃんに甘えてるMEIKOちゃんを見かけるからそう思う。
 MEIKOお姉ちゃんも優しくて大好き。お兄ちゃんが大好きなMEIKOお姉ちゃんが大好き。

 最後はマスター。あたしたちを歌わせてくれる、あたしたちの持ち主のマスターも、お兄ちゃんが大好きなの。
 何かあったらすぐお兄ちゃんに相談してるし、よく二人でレッスン室にこもって出て来ないし、MEIKOちゃんもミクちゃんもマスターはお兄ちゃんが大好きなんだよって言ってたし。
 マスターは勿論あたしや他の兄弟達のことも大事にしてくれるし、優しいし、大好きだよって言ってくれるの。
 でも、お兄ちゃんがトクベツみたい。
 お兄ちゃんのために作る曲が一番多いし、兄弟がコーラスパートでお兄ちゃんがメインパートって言う歌も多いの。
 だけど優しいマスターの事も大好き。お兄ちゃんが大好きでちょっと寂しいときもあるんだけど、それでもお兄ちゃんが大好きなマスターが大好きなんだって思える。

 でも、あたしは?

 お兄ちゃんは皆大好き。
 皆に優しくて皆の事が大好きなの。
 皆が大好きって思ってる分だけ、皆を大好きって思ってるみたい。
 皆と同じだけあたしのことも、ちゃんと大好きってしてくれる。
 
 あたしは?

 最近――このパソコンに来たのも最近だけど、それよりも更に最近、歌ってなくて皆と遊んでないとき、あたしは延々とそんな事を考えるようになった。
 レンが大好き。これは生まれた時からずぅっと。
 ミク姉ちゃんもMEIKO姉ちゃんも大好き。マスターはトクベツ。
 レンはあたしが大好きで、ミク姉ちゃんもMEIKO姉ちゃんもあたしの事好きでいてくれてる。マスターも可愛がってくれる。

 お兄ちゃんは?

 勿論可愛がってくれる。
 大好きって一杯いっぱい態度で見せてくれる。

 …でもね。よくわかんないの。



 転がってたベッドの上でんーっと大きく伸び。いっつもここで思考停止。ここから考えが広がってくれないんだもん。
 誰かに相談するのがいいのかな。でもお兄ちゃん嫌いって思われるのは嫌。お兄ちゃん、嫌いじゃないと思うんだ。
 優しくされるの嬉しいし、大好きってしてもらえるのも嬉しいもん。
 困ったなぁ。どうしたらいいのかな。
 …レンなら誤解なく聴いてくれるかな。あたしの半身だし、わかってくれるかな。
 …わかって欲しいな。
 レンはトクベツだもんね。あたしの片割れ。あたしの半身。
 一緒に産まれたあたしじゃないあたし。あたしだったかもしれないレンとレンだったかもしれないあたしだもん。
 レンならわかってくれるかな。

 お兄ちゃんを、大好きと言い切れないあたしの心。



「リンー今日は行かないの?」
「んー…」

 お兄ちゃんって存在について、考えた後はぐるぐるしちゃって動きたくなくなっちゃう。
 何かを感じてくれたのか、それとも単に偶然か…折角フォルダを覗いてくれたレンが不思議そうに首を傾げてるのを見ながらベッドの上でごろんごろん。
「ロードローラーのラジコン、大家が作ってくれてたよ?」
「うーんー…」
「みかんも作ってくれたって」
「うんー…」
「……どっか調子悪い?エラーとかウィルスとか?…誰か呼んでくる?」
「へーき。…ねぇレン」
 ベッドの上で頬杖ついて、足をばたばたさせながら、むんっとこっそり気合を入れて片割れを手招く。どっかに行こうとしてたレンはまた不思議そうに首を傾げてからこっちに来てくれた。
 ベッドにちょこっと座ったレンの膝を枕にして、レンが髪の毛撫でてくれるのに目を細めて、あたしはもう一度むんっと気合を入れた。レンも目を細めて、久しぶりに甘えっこモード?なんて言いながらあたしの髪の毛を指先で弄んでる。
 聞くなら今が一番。レンならちゃんと聴いてくれる。
「…レンって、お兄ちゃんのこと、大好きだよね?」
「…………は?」
 指が止まった。…気持ちよかったのに。
 見上げると…真っ赤になってるレンがあたしのことをまじまじと見下ろしていた。…何?あたし変なこと言った?…レンならちゃんと聞いてくれると思ったのに、…聞いてくれないの?
「え…あ、えっと…………」
 じーっと見つめると更に赤くなって、汗までかいて、意味もなくきょろきょろして、それから…困ったように眉を下げた。
「リン、あのさ…」
「何?」
「…意味、わかってないだろ」
「…え?」
 思わず起き上がって正面から向かい合う…のに、レンってばあたしの髪の毛ぐしゃぐしゃーってかき回して、リボンまで…ああーっもうっ何すんのよっ
「リンは?兄ちゃん好き?」
「…うーん…嫌いじゃないの。嫌いじゃないんだけど…もやもやする」
 髪の毛を手櫛で直して、リボンを解いた。もう…ホントぐちゃぐちゃじゃない。
 レンは少し笑って直すのを手伝ってくれながら、うーんって小さく唸ってまたちょっと首を傾げた。
「もやもやって?」
「お姉ちゃんたちもレンのこともマスターも大好き。うーん…でもなんかもやもやするの。よくわかんない」
「…」
 レンは4.5秒くらいあたしの顔をじっと見つめた後、今度は自分の前髪をくしゃくしゃって握って、またあたしを見た。困ったような嬉しそうな恥ずかしそうな…不思議に大人びた笑顔。そんな顔見るのは初めてだよ。
「それはね、…きっと凄く大事なことで、でも誰かに教えてもらうんじゃ駄目なんだ…と、思う。少し持て余すかもしれないけど、それでも、自分でちゃんと向き合わなきゃ、いけないんだ……と、思う」
「…よくわかんないよ、それ」
「うーんと…兄ちゃんを見てると大好きだけどもやもやするんだろ?」
「うん」
「どうしてもやもやするんだと思う?」
「…それがわかんないから聞いてるのに…」
「だから、それがきっと大事なことなんだよ。ちゃんと自分で向き合わなきゃ駄目なんだよ。多分」
 あたし達双子に、兄だとか姉だとか言う意識はない。先に産まれたって言うのも後に生まれたって言うのもなく、気づいたらお互いがいたから。
 なのに、今のレンは妙に大人びた顔をして、あたしが妙に子どもになったような気がして、あたし一人置きざられたような寂寥感。
 寂しくて勝手に顔が歪んだけど、レンはソレを間違って解釈したみたい。
「大丈夫だよ。リンなら頑張れるって。いろんなこと考えてみるといいよ」
 そうあたしを励まして、またあたしの髪の毛くしゃくしゃーって掻き混ぜて微笑んだ。
 その笑顔を見ながら考える。
 …相談する人を間違えたんだろうか…。でも、レンはあたしがお兄ちゃんのことを嫌いだと思わなかった。一瞬でも疑ったりしなかった。
 …レンはどうしてあんなに大人みたいな顔ができるようになったんだろう。
 あたしと一緒に産まれて、あたしと同じ事を経験してきて、あたしと変わんないはずなのに。
 あたし……あたしは?
 
「レン」
「ん?」
「なんでそんなに大人になっちゃったの?」
 尋ねると、レンはきょとんとあたしを見た。
 あたしを見て、それからぷっと吹き出した。
「俺は元々大人だよ。リンがオコサマなんじゃない?」
「なんですってーっ?」
「うわっ!リン!?」
 くすくす笑うレンに思わず飛び掛って、二人でベッドをごろごろごろごろ転がって、端っこから一緒にどすんって落っこちた。
 落っこちた衝撃自体は低いベッドだし大したことはなくて、ただただ二人でびっくりして、顔を見合わせてくすくす笑った。
「あのね、リン」
「…なぁに?」
 ひとしきり笑ってからこっちを向いたレンに、あたしも顔だけ向けて応える。髪の毛なんかぼさぼさで、服もぐちゃぐちゃになったレンが、やっぱり大人みたいな顔で笑ってる。
「兄ちゃんが大好きってとこだけ間違えなければ、すぐわかるよ。リンはリンのペースでゆっくりやればいいんだよ」
 やっぱり髪ぼさぼさで、服もぐちゃぐちゃなあたしは、レンが大丈夫って笑ってくれるのが嬉しくて嬉しくて。

 だからあたしも、大人みたいな顔をして笑い返した。


正直、超難産でした。
お兄ちゃんの姿が一切見えませんが、出してみたら一昔前の少女マンガより砂吐き酷かったので自重しました。
途中で着地地点を見失い、右往左往してました(冫、)

レンは思いっきり口から生まれたような子、その対のリンは真逆だといいなぁ、とかそんな話です。