だから言ったのに。 見慣れた…見慣れすぎた、何もない文芸部室の扉を開きながら、私は胸中で独り語ちる。 私だけじゃない。みんな、貴方に教えたでしょう? 貴方は涼宮ハルヒの鍵。 貴方は涼宮さんに選ばれた。 一番の謎は貴方です。 口を揃えて言ったのに。 貴方は涼宮ハルヒの特別だと。 窓際のパイプ椅子に座って、私は厚い本を開く。 私にとって、読書はただの暇つぶし。 この世界の、有機生命体が作り出した本というものは、読んでも読んでも読み尽くすと言うことがない程膨大な量があるから。 だから暇つぶしにはちょうどいい。それだけ。 ふと見上げた空は真っ青だったけれど、私がそれに何かを感じることはない。 だって、同じ空を、私はもう何万回と目にしているのだから。 だから言ったのに。 貴方は涼宮ハルヒの鍵だと。 教えたのに。 それでも貴方は、彼女を選ばないのね。 それでも貴方は、彼を選んでしまうのね。 何万回と繰り返された入学式。 何万回と見上げた空。 何度改変されても彼らは牽かれあった。 二枚貝がぴったりと重なり合うように。 それが規定事項だというように。 彼の想い人が、世界が改変される度、時間が入学式に戻るたび、少しずつ少しずつ変わっていっても、なにも違うものなどないと言うように同じ結末を辿り、愛し合い、求め合い…最後には傷ついた。 何度改変しても彼女は飽きず、彼の想い人の内面を、外面を、少しずつ変えながら彼を想い、彼だけを想い、ただ彼を想って、…絶望し、傷ついた。 傷ついては、また飽きることなく世界を改変した。 今までの何万通りを思い起こすと、ふと小さく吐息がこぼれる。 彼ならば、これを溜息と捕えるだろうか。 少しずつ違いながら、けれど同様に繰り返される何万通りの、しかしいつも同じところにたどり着く世界に飽きたのかと。 疲れたのかと。 彼なら聞いてくれるかもしれない。 だけど、彼女は飽きない。だから自分も飽きない。 彼女を、彼を、彼らを観察するのが仕事なのだから。 そのためだけに、ここにいるのだから。 「ここが文芸部室よね!?貴方が唯一の一年生部員?」 だから言ったのに。 何万回と繰り返した問答をまた繰り返す。 南国の花のような明るい笑顔の彼女を見ていると胸が痛んだ。 諦めることを知らない彼女。 「長門さんとやら。こいつはこの部屋を何だか解らん部の部室にしようとしてんだぞ、それでもいいのか?」 見慣れすぎた彼を見ていると胸が痛んだ。 諦めることを知らない彼。 朝比奈みくるのいた未来があるのだから、このループも無限ではないの。 いつかは彼女の…涼宮ハルヒの望んだ未来が訪れる。 それが更に何十万、何千万先の改変された世界の話だとしても。 終わりは来るの。 だから、もう諦めればいいのに。 だから、もうやめて欲しいのに。 ただ傷つくだけなのに。 「…お前が、好きだ。…古泉」 ああ、また。 世界が壊れる。 だから言ったのに 思わずそう呟くと 鋭い目付きで睨まれた そんなわけはないのに、そんな気がした。 それは彼女の視線なのか。 それとも彼の視線なのか。 はたまた、彼の想い人の? …誰の心に睨まれたのか、私にはわからない。 そして私はまた、見慣れすぎた何もない文芸部室の片隅で、ただ無感動に空を見上げる。 |
長門視点の古キョン←ハルヒ。
「古キョンかぽーがハルヒにばれるたびにちょっとだけいっちゃんの性格が改変され、
入学式の朝まで時間が戻る」という設定…。
淡〜〜く「キョン←長門」も意識してみたら色々まぢって酷いことに。
ここで説明しないとならない、なんて駄目ですね orz
精進します。
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