3・「もう一度だけ…」
「んな事言っても、また負けるだろオセロ」
<3/5・キョン&古泉、友達>

表情でどうしても、という古泉に折れて、片付けたばかりのチップをまた広げる。
「何かあるのか?」
「余りに負け続けてる自分が少々情けなくて」
「…お前でもそんな風に思うのか」
「そんなこと言われたら、流石に傷つきますよ」
小首を傾げる古泉に肩を竦め、白石を黒に裏返す。朝比奈さんのお茶をすすり、見下ろす盤面。
わざと負けてやる、というのも考えなくもないが…古泉の真剣な顔を見ているとそれもな。
…ん?真剣な顔?
そこには、いつもの笑顔ではなく珍しい真顔でボードを見下ろしている古泉がいた。
いつも緩んだ口元を引き締め、弧を描いている瞳は釣りあがり、どこか底を読ませない目の色も今はただただ勝ちを狙っているらしい。
ああ、でもそこ返してる時点で駄目だろ。
「なんかあったんだろ」
今返されたばかりの白を黒に戻しながら、何気ない口調で問いかける。
目だけは古泉を見つめて。
古泉は俺を見返し、盤面を見下ろし、また俺を見て、ふっといつもの笑みを浮かべた。…多少苦味は走っているものの。
「何もありませんよ。ちょっとした願掛けです」
「ふぅん」
それ以上は踏み込まないでくれ、という気配に相槌を打ち、マナーを守って口を閉ざす。…だから、そこ返したら駄目だっていい加減学べ。
「わざと負けてやろうか?」
「…いえ、がんばります」
何をどう頑張るんだか。

結局俺は古泉に勝ち、古泉の願が何だったのかもわからずじまいだった。
…弱すぎるぞ、古泉。

会話お題配布:トランプ配布所